PSG Art Tutorial 日本語翻訳版

更新履歴:Updates

2007年9月 2005年1月

日本語翻訳版更新履歴:Updates JP version

2017年8月 2008年11月 2008年10月

目次:Table of contents

ライセンス:Licence

現在、このチュートリアルは、自由に翻訳したり、複製したりすることができます。教育目的のために、再配布することも自由に行えます(学生向けにハンドアウトとして配ったり、など)。ただし無料であるべきです。これでお金もうけをしてはいけません。

私はこのチュートリアルを更新してくつもりですし、そうすると新しいバージョンは普通良いものになっていきますから、あんまりたくさんコピーして欲しくありません。私の手から離れたコピーは、更新が出来ないからです。このチュートリアルに広告を付け加えたり、サイトのアクセスを稼ぐ目的で掲載するのは困ります。ここは「インターネット」ですから、もしこのページを誰か他の人に知らせたいと思うなら、このページにリンクをするだけで十分です。

私はこのチュートリアルのライセンスとしては、次に挙げるものがとても近いと考えています。

Creative Commons License
This work is licensed under a Creative Commons Attribution-Noncommercial-Share Alike 3.0 License.

もしこのチュートリアルを翻訳をしたり、翻訳されたものを見つけたら、リンクを張りたいので、知らせてください。

By Arne Niklas Jansson - 2005 & 2007
Homepage: http://www.itchstudios.com/psg/
This page: http://www.itchstudios.com/psg/art_tut.htm
Contact: email rebus (Hint: It's diglett at google's well known email service.)



日本語翻訳版について

日本語翻訳版のライセンスは、上記の原本のライセンスに準じます。詳しくは以下のリンク先のページを参照してください。

Creative Commons License
このページは、以下の規約でライセンスされています。 クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-継承 3.0 Unported ライセンス

また、この日本語翻訳版は、下記のプロジェクトと協力者により翻訳されました。

PSG Art Tutorial 翻訳プロジェクト:http://www19.atwiki.jp/aki426/pages/13.html
本HTML配布サイト:PSG Art Tutorial 日本語翻訳版

(敬称略。アルファベット順。)

前書き:Foreword

絵が上手くいくかどうか、その背後にはロジックがあると思います。また、人間というのは「肉でできた機械」のようなものだと考えています。だから、いつかはコンピューターが人間を、つまり人間のやっていることをエミュレートする日が来るでしょう。ロジックはルールやガイドラインやセオリーとして定式化できます。そうして定式化されたものなら、他の人とシェアすることができるはずです。それがここで私がやろうとしていることです。

注意して欲しいのは、ここで紹介するセオリーは私が経験的に引き出した物にすぎないこと、そして私はかなり当てにならない「肉でできた機械」だということです。あるところまでは、絵は完璧なものじゃなくてもうまくいくものです。各自の嗜好にもよるし、人間の認識力や知能にも限界があるため、その不完全性には気づかなかったり、気にならなかったりすることもあります。絵を学んでいくにつれて、その不完全性がどんどん気になるようになっていくかもしれません(そして、気むずかしい人だな、と一般人の目には映るようになるかもしれません)。

多くのルールはまた、互いに対立したり、場合によってはキャンセルし合うこともあります。あるいは、様式美的(訳注:デフォルメとか)なアプローチの下では、無効になるかもしれません。ただ、私がこれからここで詳しく述べていこうと思っているのは、私たちの多くが同意するであろう、とても汎用性の高いルールについてです。宇宙人だったら、ひょっとしたら、冷たい(空の)影と、温かい(太陽の)光、というのは意味不明かも知れないけれども……。それはさておき、ここでは人間の絵について、話していくつもりです。

初心者アーティストへ贈る、なにより効果的な忠告とは、

「練習しなさい」

ありとあらゆることを、ありとあらゆる画材で学ぼう。そう、それはあなたが忌み嫌っているものを描く、ということでもあります。しかし、あなたに必要なのが練習だけだとしたら、このチュートリアルには何の意味があるんでしょうか? いや、私が思うに、多少はあると思うんです、初期段階で役に立つことが。もちろん、このチュートリアルを読むだけでは何の進展も無いとは思います。ここに私が書いたことをすべて消化するには、しばらく時間が掛かるのは間違いないでしょう。数ヶ月経ってまた、この文書を読み返すといいかもしれませんね。

専門用語:Terminology

複雑な言葉遣いは避けようと思います。いくつか基本的な用語を紹介します。

見る:Seeing

人間の脳のうち、意識下にある部分は、大量の情報を処理できるようにはなっていません。そのため、普遍性が高く、繰り返すことの多い行動は反射的に行えるようにしたほうが、効率が良いといえます。脳には、目から入力されてきた像を処理する部分があります。目から入ってきた像を処理した後には、とても少ない情報だけが私たちの自意識に送られるようになっています(自閉症の人の中には、このプロセスに障害を持っている人がいて、彼らはそのため「あまりに多くを見てしまう」ことがあります)。私たち美術に関わる者にとっては不幸なことなのですが、私たちの脳は像の認識に手を加えてしまうのです。そのため、私たちは、私たちが本当に見ているものを見ることができずにいるのです。つまりある程度、私たちは自分の認識に対してリバースエンジニアリング(訳注:機械を分解して仕組みを調べること)をかける方法を、まずは学ばなくてはいけないのです。

平らな画像(訳注:写真とか他の絵)から模写で絵を描くとき、プロポーションや角度や、パースによる変形を目で測ることは簡単です。このような場合、敬遠しがちな作業の一部は、すでになされている(おそらくとても貧弱にだろうけど)ため簡単に描けるわけです。現実のものを研究して絵にするのはとっても難しいことです。しかし、カメラで撮影できる写真は、今のところ「完全な像」を私たちに示してくれはしません。写真は色が変わってしまったり、明度や微妙な色彩を再現できていなかったりします。また写真がステレオ視(訳注:両目で見ると奥行きがわかり、立体視できる)の像でないことは言うまでもありません。

たまねぎ(レイヤーで考える):The onion (Thinking in layers)

いざペンで描き出す前に、考えておかなければならないことがいくつかあります。とはいえ、本当にいちいち考える必要は無くて、自然にできるようになっているべきことだけれども。

上の方の空の反射はBLUE-CYANを足す DEPTH FOG:空気遠近によるかすみ(GRAY) 暖かい
表面の光沢(光沢のマップ) 冷たい

注意点として、これは主にリアルなスタイル向きである、ということが挙げられます。たとえ一筆であっても、絵のほかの部分や彩色計画(color scheme)に調和するように、かつ効果的に見えるようでなくてはなりません。また、あなたがすでに独自のスタイルとかやり方を持っていて、ある色使いやテクスチャを受け入れがたく感じたりするかもしれません。そして、別の事を優先させたくなるかもしれません。しかし、パワーパフガールズのようなイラストであっても、そこにはリアルな表現にある要素を単純化したものが使われているのです。「それは僕のスタイルにそぐわないから、学ぶつもりはないよ」などという言葉で、逃げてはいけないのです。

光について:Light stuff

光の中には、反射しているものがあります。目に見えるのは、最終的に目に飛び込んできた光だけです(訳注:つまり物体に反射した光によって、物体が「見えている」ということです)。 光が表面にぶつかるとき、二つの重要なことが起こります。第一に、光の一部が吸収されます。これは色ができる理由です。赤いリンゴは赤い波長の光を反射し、他の波長は吸収されて熱とかになります。だから、黒い物体は太陽の下でとても熱くなるわけです(訳注:黒は光を全部吸収する色だからです)。 もう一つは、反射です。反射した光はランダムな方向に飛んでいきます。これは、凸凹の岩の上でテニスボールを落とすと、ランダムな方向に弾むようなものです。床が平らなら、予想どおりの反射をするでしょう。鏡はとても平らで、光はひずむことなくまっすぐ反射するので、わたしたちは「鏡像」を見ることができるわけです

注意点:すべての表面にはツヤがあります。ツヤの正体は、反射光だからです。マットな素材面では、ツヤは崩れたり薄まったりします。

点光源からの光沢 「OPPAIじゃないよ」 テカテカ面
青空からの光沢 くすんだ面
表面のタイプ
鏡・プラ・金属・磨いた面 オレンジ・デコボコ 濡れた肌(水でコートされてる) つやつや
ゴツゴツ・磨いてない面(石とか) 綿布・紙 マットな面
光沢が作られやすい場所
シャープなエッジ 角のとれたエッジ くぼみ くすんだ面

眼/見る人の位置に応じて、光源方向やツヤが違って見える例。たとえば水たまりの表面は曲がっていないけど(表面張力によるエッジ部分は除く)、輝いている光の反射が、ある特定の点だけに見えるでしょう。太陽とか電球とか小窓のように点光源が1個だけの場合、光沢は点となって見えます。


写真の説明 - 光沢は、微弱だけど、布にもあります。この写真は私のシャツを指で引っ張って、平らな面を二つのドットの間に作ったものです。二つの写真はカメラの位置が違うだけで、服は動かしてないよ。

地上では、私たちの身の回りをぐるりと物がとり囲んでいて、光を反射しています。つまり、多かれ少なかれ、あらゆる角度から光が反射されてくるわけです。例えば、空というのはドームの形をした青い光源のようなものといえます。それから、地面があって、壁があって、他にも色々反射面があります。ですが宇宙空間では、基本的に単一の光源、太陽しかありません。そのせいで、月は明るく照らされているところと、陰になっているところがそれぞれ1箇所ずつしかなく、(訳注:球ではなく)まっ平のようにも見えます。ただし陰になっているところをよくよく見ると、地球からの反射光で照らされていることが分かるかもしれません。とっても弱いけど。もちろん他にも星の光がありますが、たぶんそれはもっともっと弱いでしょう。

光が物の表面に当たって反射するとき、光の色も変わります。反射した光がさらに同じ色の表面に当たったら、その表面の色はより鮮やかなものになります。

赤い壁から反射してきた光。赤い光が「加算」されるので、元の陰の色よりも暗くはならないよ!
光が反射を繰り返すのを考えると、肌と肌の間では色が鮮やかになります。

屋外 屋内 太陽光と青空は暖色と寒色
もし宇宙なら…… オレンジすぎる!影はたいてい彩度が低い

(肌にしちゃあちょっとオレンジすぎるかもだけど。)

露光レベル:Exposure

太陽光は青空よりもずっと明るく、青空は室内よりずっと明るい。私たちの眼は明るさにすぐに順応するし、違う明るさの所をちらっと見たり、注目するだけでもすぐに順応できます。このようことは意識しなくてもできてしまうので、目が実際にはかなり限定された明るさの範囲しか見れていないことは理解しがたいものです。この制約は、カメラを例に取るとわかりやすいかもしれません。室内で写真を撮ると、窓の部分は明るすぎて露光オーバーになります。窓の明るさに露光レベルを調整すると、今度は室内が真っ暗に写ってしまいます。逆に、これを上手く使うこともできます。たとえば、キャラクターや物を手前の暗がりに配置すると、背景の明るい部屋に対して、キャラクターのシルエットがわかりやすく表現できます。

露光を調整することで、ボディの一部だけを、肌のカラートーンからは外れたとても明るい色に見せたり、暗い色に見せたりすることができます。また、影となるところを黒く潰して、光が当たってるところを露光オーバー(訳注:白飛び)させると、色が見えるのはその境界の一部だけになります。

素材:Materials

ここでは、いろいろな素材を私がどう塗っているか、例を示してみます。

「粘土」 「プラスチック 「金属」
平坦な感じ ハイライトに飛ぶ感じ ごく短い部分(で明度を上下させる)

(訳注:下の曲線はトーンカーブ調整)

影:Shadows

影は一様な色でたいてい彩度が低いものです。影を観察すると環境光の色がわかりやすいです。物体と影との距離が離れると、影の輪郭はぼやけます。これは回折と呼ばれる現象によるものです。


【影】 フラットな影 強い光で露光オーバー
根元は地面からの反射光が当たっている
回折(誇張した表現)
フラットな影
スペース埋め 影を重ねちゃいけない!
(光源が「1つ」しかない場合は、影は重ねたり(掛け合わせたり)してはいけない……)

肌色のトーン:Skin tones

環境光を考えましょう。屋外では光は強く、青い環境光と、青空の色を反射するために肌の色は彩度が低くなります。色の混ざり方によっては紫色っぽくなることもあります。これは日陰に人がいるときなどによく起こります。

室内(窓が無くて電球だけの部屋)では、光は温かい色をしていて、肌の彩度を高くしてオレンジ色や赤色にします。

肌の影の部分は、たまに緑色にそれることすらあります。特に、部屋に緑色の壁紙や植物や家具があったりするとそうなります。

白い部屋やバスルームでは、肌は白っぽい色になります。環境光があらゆる方向から明るく届くので、光と影のコントラストが下がります。

単一の強い光源だけがある部屋の場合、影は真っ暗になります。

……つまり、どのようにキャラクターを塗るかは、そのキャラクターが置かれている照明環境に大いに影響されるのだ、ということです。

色彩:Hues

人間の体は、たくさんの異なった色彩をそなえています。衣服に覆われている部分は、ほとんど日焼けしていないものです。股間のあたり、坐骨の周り、それから胸のあたりはかなり青白くなっています。肩、前腕はほんの少し日焼けしています。前腕の内側は普通日焼けしていないものです。膝頭や肘はすこし黒ずんだ肌色をしています。顔もまた、たくさんの色彩を持っています。たとえばばら色のほほだとか。男性の場合は無精ひげのためにグレイや、ほとんど緑色のアゴ(訳注:日本では信号機が「青」黄赤であるように、海外だと長島監督のアゴは「緑」と表現されるようです)になっていることもあります。人間の体の彩りを知るのに最善の方法は、もちろんそれを研究することです。動物や、モンスター、その他の物体も様々な色彩を持つことを忘れてはいけません。もしあなたが同じ色相と彩度で全てのものを描いたとしたら、できあがった絵はさぞかし退屈に見えることでしょう。

環境光や反射光に影響をうけている色もあります。肩や、上を向いている面(肌)は、空が写り込んでいるために青色の色相になっていることもあります。

彩度によるグラデーション - 明暗の間のグラデーションは、ただ影の色と光の色との間の色になっているわけではありません。もし影と光を単純に混ぜ合わせたとしたら、生気の欠けた色に見えることでしょう。写真をよく見れば、あなたはグラデーションが彩度によるものだということが分かると思います。特に、画像を加工して彩度を下げるとよくわかるでしょう。
中間で彩度を上げた
ホコリが混じっているようだ
退屈な肌のトーン

表面下の光の散乱 - 強烈な光は素材の表面を透過し、まわりに跳ね返り、それから外に出てくることもあります。この現象により、彩度は増加し、内側から光っているように見えます。素材が人間の肌だった場合は、強い光と影の間のはっきりとした境界線上に、ときおりこの現象を見ることができます。
強い光
血液


写真の説明 - 植物の葉は上側は光沢があり、この部分は時により青い空が写り込むことがあります。葉を透過した光の輝きは、下側をより彩やかに見せます。この現象は耳や指などでも同じように起こり、強いバックライトであれば真っ赤に見えることもあります。


写真の説明 - 指先の表面下の光散乱の例。親指の左側からあたっている光は、おそらく人差指から反射してきた光だろうと思われます。


写真の説明 - ここで注意すべきなのは、光と影の間の鮮やかな境界線(edge)が現れるのは、露光が過度になっている時だけ、ということ。親指のあたりにははっきりと現れていません。

色の相関性:Color relativity

色と明暗には相関関係があります。さまざまなトリックを使うことで、見ている者にある色を別の色に思い込ませることや、明度を実際よりも暗く見せることも可能です。不幸なことに、芸術家ですらもこのトリックに引っかかってしまうので、色や明るさを不必要に使いすぎてしまうことがあります。

二つの違う明度に挟まれた強い境界線は、柔らかい境界線よりも明確になるでしょう。どんな時にどちらを使う方が良いかは、知っておかねばならないと思います。時には、明度の選択肢が非常に限られることがあります。たとえば影の中のものを描くときなど。強い境界を使うことで、少ない明度の変化しかなくても、ディテールを描写することができます。一方、グラデーションを使うと、見る人に気づかれずに明度を変化させることができ、便利だったりします。下のイラスト「fake flat」は均質な塗りに見えるかもしれませんが、実はグラデーションを使っています。右側の小さい正方形は長方形の左端と同じ色です。

同じグレイ 両方とも黒に見えるが…… こうすると違いがわかる
シャープなエッジ グラデーション フェイク・フラット(1色に見える錯覚)

同じ明度の色は、色相の観点から見て互いに関係があります。よくあるミスに、とても彩度の高い色でディテールを描いてしまい、そのため近くに描かれたものがグレーに見え、そしてそれを補正するために傍らのディテールの彩度まで上げてしまい、結果的に絵全体の彩度が上がりすぎてしまう、ということがあります。

ボンヤリしているように見える 浮かび上がって見える
灰色が寒色に見える 灰色が暖色に見える

色の同一性:Color identity

調子に乗ると、限度を超えたハイライトを入れがちです。これは物の色を見わけることを難しくしてしまいます。代わりに、物の立体感を表現するには影を使うべきなのです。

本来の色はこのあたりにしか残っていない この平らな部分に本来の色がたくさん見えている

平坦化と単純化:Flatten and simplify

大きなブラシでの絵を描き、無駄なブラシストロークを減らしましょう。下に悪い例と改善した例とを示しました。私は2つ目の絵には大して手を入れていません。ただ単純化しただけです。驚くほどに、数少ないフラットな面で、絵が描けるのです。ただ、顔にはいくらか余計に時間を費やしました。悪い顔、というのはすべてを台無しにします。画像は参考資料を元に描いたものです。

見どころ:Focus points

絵を描くということは、重要なディテールとそう重要でもないディテールの、ヒエラルキーを作ることと同じといえます。たとえばピンナップを描くのならば、メインの人物と、そのシルエットが最も重要だといえるでしょう。マンガ表現では、太い輪郭線をシルエットの周りに描き、重要性が低いほかの細かいところは、それにあわせて細い線にしていきます。絵を塗っていくときも全く同じことが言えます。ペンの代わりにブラシストロークでやっているだけです! 色相、彩度、明度、エッジ(ストロークの輪郭)、鋭さ、ディテール、それらの構成を変え、見る人の目の動きをその絵の見どころ(focus point)へと導くようにします。

もし、絵のいたるところを同じように描いていったとしたら、その絵は大層平坦な絵に見えることでしょう。重要な部分に視線を誘導することはできるはずです。しかし、視線が一度その重要なところにきたら、視線をそこに留めるだけの何か興味を惹く、たとえば適度なディテールが必要になります。ある部分に書き込まれているディテールの量は、視線がそこに留まる時間と比例しているべきなのです。


彩度/色 明度&コントラスト
エッジの方向 シャープネス
視線を惹きつけるために使えるいくつかのテクニックを、別々に図示してみました

ここに私が作った一例を挙げてみる: (A)重要なフォルム | (B)テクスチャ | (C)AとBの両方

ディテールを描き込むことに熱心になるのはとても危険なことです。とくに初期の段階では。(あなたは)光の当たっている絵と同じように、暗がりを細かく描くことはできないでしょう。2つ目の絵、(B)では、私は全てのディテールを描き込みましたが、これはもし重要なフォルムである(A)を考慮しないで、ディテール全部を描き飛ばしたらどう見えるか、をデモンストレートするためです。(C)はまだちょっとばかり見づらいところがありますが、より構成のしっかりしたものになっています。横からの眺めであることは、あなたも納得してくれると思いますが、骨格が少しヘンなのでそこが読み取りづらくさせています。

Aは何もディテールが無いフォルムだけの状態。BとCはディテールがある状態。Bのようになり過ぎないように注意! フォルムも読み取れるようにすべき。

パースと構造:Perspective and construction

ここで、長々とパースの描き方について書くつもりはないです。そのかわり、数本のガイドラインを引くだけで、後々描き進めていく中で、どれだけ人物や背景のパースを揃えることがラクになるかを書こうと思います。

もしあなたが背景を描くのに気乗りしない、しかもそれがパースを引くのがつまらないから、というのであれば、シンプルな2点透視法を使い、細かいところはあて推量で良いのです。数本のガイドを引くだけで描いている物のパースを揃えることが、どれほど簡単になるかを知ったら、驚くほどでしょうから(ともかく私はそうでした)。この方法で完璧に正しく見えるようになるかというと、そうではありません。あなたが即興ですばやく描けなかったり、いちいち定規で決めて引かなければならないために、つらい思いをする危険性はあります。最初は、水平線を描いて。それから、両端から放射線をランダムに描きます。最後に、ガイドを消しつつ描いていけばよいでしょう。

柔軟 固い

ここでは、数本フリーハンドで線を引いて、肩のラインやそのほかの物を揃えるガイドにしています。人を描くときは、「背骨」を決めてから描くと体を配置するときにラクです。

線画:Line art

誇張表現 - 絵の偉大な点は、物事を誇張することができる、ということなんですよ。お尻とかおっぱいとかね。ハハ、いや、本当に僕は真面目に言ってるんです。大事な曲線をより強調できるということは、良いことなんですから。

単純化 - 写真よりも絵が優れている点は、単純化できるということにあります。写真では、ディテールのために気が散ってしまうことがあります。絵では、そのシーンに関連のないものは取り去ってしまうことができます。しわとか、重要じゃない突起物は、線の流れをよくするために取っ払ってしまえるのです。私が目にするよくある間違いとしては、やりすぎなほどのクロスハッチングを使って腹筋全部が描かれていること。線は省いてしまったほうがいい。特に色を塗るつもりなら、別々の色の領域のコントラストが線の働きをするから、省いたほうがいいのです。

調和をとること - 他の言葉で言えば、「線が流れている」こと。上に書いたようなこととは違って、調和とは、ディテールの間の関係と、線がどのように交差し、別の部分へ流れていくか、に関係すること。後から、いくつかのパーツに沿うようにして流れる線を何本か引いてみましょう。

スタイルをつくる - スタイルについては、首尾一貫していることが大切です。曲線をキツいエッジに変えることもできるし、滑らかな線で描くこともできます。私がよく好んで使うのは、ある程度以上の曲線は、キツい直線と角に変えてしまうスタイルです。

線の重み - 少しの例外を除いて、一定の線の太さで描かれた絵は、私は好きではありません。ここでは、いつ、どのように線の太さを変化させるべきか、一般的なガイドラインを作ってみようと思います。

また、いつも1本の線を引かなければならない、ということもないのです。たまには、線の両端だけをヒントとして出しておいて、目に残りの部分を補完させる、ということをやってもいいでしょう。例としては、皮膚が両側から押されてくっついている部分、口とか、お尻とか、寄せて上げたパイオツ(訳注:本当に辞書に書いてありました)とか、まあそんなところです。隙間が開いているところでは、線はちょっと太くするといいです。例えば、服が引っ張られて隙間の上にかかっているところ、筋肉の間とか、それから……胸の谷間とか。

最後に、数枚イラストを。最初のものはPhotoshop(5.5)とワコムのタブレットによるもので、線のクオリティについて話すべきことは特にないけれど、あなたに何がしかアイディアをつかんでいって欲しいと思っています。2枚目は、数年前にインクで描いたもの。(訳注:原本ではコメントアウトされていました

暗示されているライン 暗示されている物の輪郭
いまいち シュッと流れるようなライン! リアルなディテール 単純化 エッジを強調
流れを意識したライン ハエたたき

動きの方向が多すぎでバラバラ

色を塗るときには、主線やアタリに使った線は邪魔でしかないものです。物の形を他の物と分けるのに、黒い線でなく、別の明度(の色面)とか、明るい色の線を使うこともできます。ここでは、イラストレーションの上で、いくつか取り得るソリューションと、それがもたらす効果について示してみます。

線画は、いくつかの過程を進む中で洗練していくようになっています。初期の粗い段階の絵を薄くすかして、その上に描き重ねていくようにして、良くなっていきます。ここに挙げた、最後の段階のものはまだ完成ではありません。

練習方法:Studies

私も、ほんの数年前までは絵の研究を始めようとはしませんでした。そして今そのことを悔やんでいます。当て推量で線を引いたり、ガリガリと闇雲に描くことで、偶然正しい線に行き着くなんてことは、無いでしょう。今のところ、お手本を使うことだけがあなたを導いてくれると思います。自由に、そして素早く描けるようになるためには、物の基本的な構造(たとえば、基礎的な解剖学的知識)などについて、いちいち考えることなしに描けるようになることが必要です。それこそが、デザインやディテールに集中できるようになるための、方法なのです。

まずは、描き方/塗り方を組み立てましょう。ディテールごとにペンをうろうろと走らせるようなことをしてはいけません。常に全体のプロポーションをチェックし、あまり早い段階からディテールにとらわれてはだめです。重要な部分には、マークをつけておきましょう。これらがランドマークのようになって、後で調整するのに役立ちます。

1度に1つのことを学ぶようにしましょう。ジャグリングを練習しながら、400mハードルの練習もするなんてことはできません。画材やツールの扱い方を学びたいと思ったら、まずはカンタンな題材、例えば果物とか、の練習をしましょう。人の顔を練習したかったら、まずは良く知っている画材を使うことにしましょう。顔の練習の上に、画材でも四苦八苦するなんていうことはしないように。うまく扱えないことがいくつも同時にある場合には、自分が今失敗しつつある原因が何なのか、見えなくなってしまうからです。量をこなすことも、もちろん大事なことです。けれど、例えば、人体の練習をするために面白みのない木彫りのデッサン人形を使うなんていうことは、あんまりお薦めはしません。

線描の練習 - 鉛筆で練習するときには、紙の上にさっといくつか素描をするだけでもいい。私が鉛筆で練習するときは、A4の紙に10個から30個くらいの素描をするのに数時間くらい費やします。私は月に数回しかこの練習をしませんが、毎回確実に上達しているのを感じます。想像してみてほしい。もしあなたが1週間に数回、同じ練習を繰り返したら、1年後にはどうなっているだろうか?

1 - 2 - 昔、コミック(ポーズの絵)と写真(顔の絵)から書き写して練習したときのもの。

塗りの練習 - 私がデジタルで練習をするときには、フォトショップと、ほとんどの場合ネット上の写真を使ってやります。(写真の)ウィンドウを複製して、新しいやつをクリアします。それから、大体同じような位置に大きめに色の塊を置いていきます。その後、徐々にディテールを増やしつつ、出来る限り明度や色の精密さを上げていきます。遠くから見たり、目を細めたりして見て、オリジナルの写真に近いように見えたら、出来上がり。私はいつも、ディテールを書き込める大きさのうちで、できるだけ一番太いブラシを使ってやっています。オリジナルの写真からカラーピッカーで色を取ってくることはしないけれど、2つのウィンドウを同じサイズで表示するようにして、ミスした部分がどこか、見比べればわかるようにしています。難易度を上げたい(もっと上達したい)場合は、違うサイズのウィンドウに描くようにするとか、左右逆に描くとか、写真ではなくて実物を見て描くようにすればいいでしょう。

人物の練習:1 | 2 - 1つ目はOpen Canvasで、2つ目はPhotoShopで描いたもの。

1a -> 1b | 2 - これは、できるだけ効率よく描くようにトライしたもの。2つ目は、練習ではないが、クリンナップ(練習ではやる必要はないけれど)の一つの例。

1 | 2 - これらは資料を使って描いたもの。いくつかの素描やスタイル(画風)を勝手ながら追加させてもらった。(訳注:これらのリンクはすでに切れている)

1 - 私が最初にやった練習の中から1枚。

研究課題:Subjects to study

あらゆるものから学べ! 直感的に描くためには、形状と物事についての巨大なライブラリーを頭の中に構築する必要があるのです。その構築に掛かる時間は人生と同じくらいか、あるいはもっと長いものかもしれないのですから、今すぐにでも始めるべきなのです。

人体構造 - あなたが知っておかなければいけない最も重要なことの一つ。怪物でさえ、人体構造の形跡があるものです。

ジェスチャとスタイル(画風) - 多様で、新しいアイディアを持っておくことが大事です。いくつかの異なったスタイルを学んでおくことは良いアイディアです。

環境 - あなたのキャラクターをある環境に配置すれば、本当に生き生きしてきます。これは私自身が確実に学ぶ必要があることでもありますが。

動物図鑑を持ってくる - ……そして、いくつかの動物を描いてみなさい。モンスターをデザインする良い方法は、動物の一部を別の動物に変化させることです。

機械 - 機械を描く練習もする必要があります。ロボットや、復讐に狂った惑星破壊用人型決戦兵器なんかを描く時に役に立つでしょう。

古典的な静物 - それか、基本的には何でもいい。単純な形状をしているので一般的な描画と彩色のやり方を学ぶのに適しています。あまり形状を写し取ることに必死にならず、むしろその材質に集中すること。

自己批判:Self critique

自分が間違ってやっていることを分析しなさい。 画を見つめすぎて逆によくわからなくなってしまうることは、よくあることです(上手く描くためには、じっくり見なければならないのは確かにそうだけど)。画像をくるっとひっくり返して上下反対に眺めたり、鏡を通して見たり(私はCDを使っている)、拡大縮小してみたり(裏返してみたり)してみましょう。座って、紙にかじりつくほど近づいたり拡大したりしてはいけません。フォトショップの「新規ビュー」機能を使うこともできます。

時間をかけて描いた物だからといって、すなわち価値があるわけではないことも、受け入れなければなりません。描いたものの出来が悪く見えたら、それに費やした時間を犠牲にする覚悟を持たなければならない。ディテールを上手く描けたと嬉しく思っていたとしても、それを描き換えなければならないこともあります(つまりお気に入りさえ捨ててしまうということ)。時には、描き直さなければならないのはあなたが意識を向けているディテールではなくて、それに関係している部分、背景の明度や、他の細部の遠近感だったりします。

重視すべき順番:Orders of importance

ごく一般的な話として言われることですが、絵の中にはいくつか他よりも重要なポイントがあります。

  1. 組み立て:Construction - あなたは今、何を描こうとしているのか? あなたが決めた主題や構成は、ファンダメンタルなレベルで絵に作用してきます。もしそうでなかったとしたら、世にある作品はどれ一つとして絵の体裁を保っておかれないでしょう。後で絵の一部を修正できる、などという錯覚を持ってはいけません。今、描いているときに、ポーズがおかしいように見えたら、描き上げたときにもやっぱりヘンに見えるでしょう。たとえそれがレンブラントが描いた絵だったとしてもね。
  2. 明るさ:Values - 絵が輝きだすためには、フォルムを彫り出すように明度を使いこなす必要があります。明るさ、明度は、物の形を分けたり、グルーピングしたりといったことに大変効果を発揮します。 例1:Example 1 - この例にある最初のバージョンはあからさまに間違っています。それぞれの形が影とハイライト処理で描かれている、だけ、です。2つ目は良くなってはいますが、1つの明度のタイプがあるだけです。3つ目は別々の形状に対して、別々の明度が使われています。ただ、構成の段階ですでに失敗していたのでしょう(訳注:つまり3枚目もイマイチ、ということらしい)。まあ、これはそんなに面白い写真ではないですけれど。 例2:Example 2 この例では明度と色の両方を使って、前景と背景を分離させています。ただ私はこの絵もそれほど気に入ってはいません。また構成の段階で失敗しています。
  3. 色:Color - 色(色相と彩度)については、忘れがちだし、そのまま忘却のかなたへやってしまうこともあります。もしあなたが色を効果的に働かせることができないでいるのであれば、それはおそらく明度が間違っているせいでしょう。もし前のステップがうまく絵に作用していれば、カラーバランスツールを使って鮮やかな見栄えのするイメージにすることは簡単だからです。私の経験上、大抵は、最初のオリジナルの選択が一番良いものですが。

批評とよくある間違い:Critique and common mistakes

私が様々なフォーラムに批評を寄せるとき、結局いつも全く同じ内容のことを書く羽目になったりします。ここでは絵描き初心者のよく犯す間違いを列挙していきます。

問題:物の配置やアングルにかかわらず、とにかく全ての物について影~中間色~ハイライトと描き進めるケース。

解決策:ズームアウトしたり、絵を反転させてみたり、頭をひっくり返し上下逆転させて眺めたりしてみてください。各々のディテールを一度に一つずつ個別に描かないようにしましょう。同様に、瑣末な部分に光を当てすぎると絵が平坦なものになってしまい、重要な主部が判りづらくなります。

問題:影の部分へは黒色を混ぜて塗り、光の当たっている部分ではホワイトを混ぜていると、中間色のところが不鮮明になってしまう。

解決策:そのようなやり方をすると、絵は灰色でくすんだものになってしまいます。私は何人かに「陰影についてのチュートリアル」を頼まれたことがあります。ですが、そんなものはありません。暗い色から始め、明るい色で終わる、そしてすべてのディテールにそれを施さねばならない、と言うことに近道はありません。光がどのように作用しているかを学び、まるで3Dレンダリングプログラムのように描けるようにしなければいけません。こういう意見には過剰反応する人がいますけれど、私にとってはこれが正解なのです。偏見と習慣を手放し、ただ「表現のルール」に従ったとき、概して最良の結果が得られるのです。

問題:見る人を惑わすだけのハイライトの細かい表現。このような場合、覆い焼きブラシは本当に罪作りです。

解決策:しっかりと描き込まれたすごく綺麗に見えるディテールたちですが、あなたはこれを犠牲にしなければならないでしょう。重要なことは絵の全体です。隅の小さい男のベルトバックルの煌きなんてどうでもいいのです。目はハイライトとコントラストと彩度のあるところに向かっていきます。目を絵の重要な部分に導いてやらないといけません。

問題:のっぺりとした堅いポーズ。まるで叩かれたハエみたいに見えます。

解決策:私もほんとうによくやります。腕をいっぱいに広げている人を側面や正面から描くことはとても簡単です。構図に特別のアイディアでも持っているか、あなたが肖像画を描いているのでも無い限り、その絵はとても退屈で、動きの無いものになってしまうでしょう。ある絵の中で、キャラクタの全てを詳細に見せるという試みは、魅力的な話ですが、もしあなたがダイナミックなポーズを追求しているのなら、そういう試みに可能性はほとんどありません。体で腕を隠してしまうことは、良いポーズを得るために支払わなければいけない代償かもしれません。またディテールを隠したときは、どのように見えるかを見る人の想像に決めてもらうことになりますが、これは良いことです。キャンパス上に描かれているものよりも、頭の中にできた像の方がよりよく見えるからです。いずれにせよ、コミックや実際のモデルや写真を研究し、フォアショートニング(短縮遠近法)や動きのあるポーズを学んでください。そうすればハエに叩かれたようなキャラクターを描くこともなくなるでしょう。

問題:効率の悪い塗りや、「ウホッ! こいつを見てくれ。のびのびとしてるだろう」という芸術家気取りの塗りを試みること。

解決策:どのような塗りであっても作品に貢献するでしょう。しかし芸術家気取りのでたらめなストロークで済ませたいと思ってる人もいるでしょう。でたらめな塗り方はディテールをでたらめなものにしてしまいます。でたらめなディテールは、絵が本当に示したかったディテールから見る人の目をそらしてしまいます。「神絵師たちは完璧な絵を、素早く、場所を間違うことなく、ほんの数回のストロークでもって塗っている」と思われているらしいことは知っていますが、実際には彼らも、何度も消しては、調整を繰り返していると思います。一部分一部分、絵の全体をチェックし、消したり塗りつぶしたりして絵をだめにしているストロークを無くすようにして下さい。気取ったでたらめストロークに焦点が合わないようにし、モチーフに焦点が合うように注意して下さい。主要な部分の形と立体感は、常に一番重要なもので、小手先の塗りは全体を活かすためには犠牲にすべきでしょう。


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